中丸さん傘置いてっちゃってら』
職場で同じPCを使う男の人の傘が、
席にかかりっぱなしになっている。
時間帯が違うので肩を並べての仕事は滅多にないが、
仕事前の俺とたまに会話をすることもあり優しそうな印象の眼鏡の男性。
特にそれ以上気にせず仕事をし、
昨日は仕事を終えて帰宅した。
今日職場についてもまだ傘が掛かっていて、
中丸さんもまだ席で仕事をしていたその状況。
『おはようございます』
「あーお疲れ様です。
矢花さん傘忘れてってるじゃないですかw」
『え?』
「え?」
止まる時間。
共有される思考。
(俺のじゃないです)
(俺のでもないです)
((じゃあ誰の?))
誰の持ち物かは分からないが、
中丸さんは出勤したときにこう思ったらしい。
「あれ、
矢花さん傘置いてっちゃってら」
もし出勤時間が被らずに些細な会話もできないままだとしたら、
お互いに
あの人また傘置いてってるよ
状態に入っていたに違いない。