2011年09月30日

懲り懲りず

どもども、
相も変わらず夜中からの更新、
ダイジェストの記事で盛り上がってる所にこんなん書いてよかったのかのアロゥです。

またね、
暇人が一つ勝手に書いて勝手にあげちゃったけどいいんでしょうか吉田さん?

公演が終わって一ヶ月以上経ってるのに今更!?っていうね。

この前もビフォアストーリーなんて銘打って好き勝手書いたくせにまたかと。

一千光年の引力、
まだ体から抜けておりませんで。


連続で更新した記事「RE:Birthday」ですがー、
主人公ルシアの幼少期、
スパイチームとの関係を主にして、
尚且つルシアを演じた谷部っちがブログに書いてた、
実はラスクっていう友達がいたんだよなんて裏設定発言を取り入れてみたんですわ。

こうやって文章書いてみるとねー単語の引き出しの少なさに絶望したくなるのは毎度のことなんですが。

誤字脱字は脳内補完でなんとかよろしく。

まだオークの人の、
もとい多くの人の記憶に残ってる作品だと嬉しいなぁ。

なーんて俺が脚本書いたわけでもねぇんだけど。

あくまで二次創作、
物書きが俺の本業じゃ無いので適当に楽しんでくれる人がいたらよし。

んじゃ、
あばよ。



LIPS*S稽古場ブログに書いた内容をそのまま載せてみただけじゃつまらないので、
一つだけ情報を暴露。

一千光年の引力の初期台本、
ルシアとレオニスとアルル以外皆名前が違ったんだぜ?

ウェイは確か「バルト」だったし。

その初期台本でルシアの同僚リゲルと、その妹で第三の巫女候補スピカの名前が…
ラスクとカレンだったっていう。

そんな感じ。

RE:Birthday 08

―――パチン、とロケットを閉じる。
オーク王宮の下では爆発が続き、煙も炎も悲鳴も上がり、夜を赤く照らす戦争の最中、慣れ親しんだ匂いの渦中。王宮のバルコニーの陰で、今の名前を捨てようとしている男。

「ルシア、か」

10年間連れ添った名前と記憶、それらが詰め込まれてきた大事なロケット。写真の中の両親の微笑み、頭の中に広がる一人の女性の笑顔。
彼女の居場所は見当がついている。そこから連れ出す理由は拘束の為で、共に逃げ出す為じゃない。ミファエル共和国のスパイとしてこのオーク王国に忍び込み、崩壊させ、長い戦争の歴史に幕を降ろすことこそ目的。俺がルシアなら、だ。
火の子が舞う濁った戦場の空気を肺いっぱいに吸い込み、大きく、全て吐き出してから呟く。

「久しぶり、クルクス」

10年間誰にも呼ばれなかった名前を自分で呼んでみた。自分なのに自分じゃないような、なんだか不思議な感覚でちょっと背中が痒くなる。
彼女の手を縛る縄を俺は切ってやれるだろうか?自由になったその手で彼女は俺の手を握ってくれるだろうか?大きな瞳を輝かせ語ってくれた「いつかクリプシュまで行ってみたい」というその願いを、また俺に語ってくれるだろうか?酷いこと言って酷いことして、怒らせた。「これが俺達のあるべき姿なんだ」とか言い切っちゃったし。許してもらえなかったとしても、そんな気があったことを仲間に知られたら終わりなんだ、何にしても逃げ出す事にはなる。
こんなバカなこと、ちょっと前まで考えもしなかった。彼女の存在がどれだけ自分に影響を与えたかを話しても、納得してくれる仲間は多分、いない。過去の誓いを忘れたわけでもない。それでも、それでもなんだ。
大きな風の音に負けない大声で、ロケットに向かって彼は叫んだ。

「こちらルシア、これより星の巫女を捕える最後の任務に向かう!」

自分で呼ぶ最後の自分の名前。人生の半分以上、10年間という年月の中で色んな人から…本当に色んな人から呼ばれた名前。新しく家族として受け入れてもらえた名前。裏切るために近付いて呼ばれた名前。

これからは、また。

RE:Birthday 07

初任務の要人暗殺は驚くほど簡単に成功した。
カーラの監視はターゲット二人の行動を完全に把握したもので、歩幅や通路の右側と左側どちらを歩きやすいかというデータまで作成してある。
ウェイが調達してくれた武器はラスクとルシアの身長、手のサイズ、筋力まで考えたベストな武器。グリップも握りやすく滑らない。
サンクストン国内でレオニスが収集した情報にも誤りはなく、何よりラスクの演技力。子供という点で安心させて要人が行動している施設に入りこみ、警備員には上手く泣き、上手く喚き、親代りを探してるとホラを吹き話だけでもと要人に近付き、そして殺す。
呆気に取られるルシアも、これまでの訓練を思い出しもう一人の要人を殺す。後ろから声を出させないように、確実に、的確に、素早く。肉に刃物を刺した時の感覚はこの時初めて知った。
小さい国とは言え…難易度の低い簡単な任務とは言え、二週間という短期間で手際よく任務を成功させられたのは各隊員のスキルの高さがあってこその成果なのだ。

特別隊の五人はそれからスパイとしての活動を増やし、少しずつでも確実に、ミファエル共和国に有利に状況が働くように暗躍を続ける。特にラスクは積極的に単独任務も引き受け全員が揃う日は少なくなったが、ルシアはスパイとしての素質に恵まれ復讐の為に国に尽くすラスクをいつからか目標にさえしていた。
偵察、監視、調達、潜入、接近、暗殺。戦争という不条理の正義を掲げオーク王国に通じる様々な物を破壊、殺害、爆破、誘拐。特別隊の5人は失敗をする事も無く、着実に任務を遂行していくエキスパートにまで成長。
全員で一つの任務に当たる時には食事も風呂も睡眠も、レオニスの部屋でそうしていたように共有し、絆は更に濃くなっていく。
隊長として、時には父親のような立場で接してくれるレオニス。兄のようにふざけ合ったり、場の雰囲気を柔らかくしてくれるウェイ。姉のように、冷静な判断をして場をまとめてくれるカーラ。そして親友のように、暖かく自分を信用して受け入れてくれたラスク。

特別隊として活動を始めてから5年後、失敗をしてこなかった特別隊メンバーの一人が初めて大きな失敗をした。取り返しのつかない失敗。
オーク王国と関係の深い国に単独潜入し一人の要人を暗殺する任務に、いつも通り志願して意気揚々と向かったラスクが、スパイであることを見抜かれ、処刑された。
自身もまだ信じられない様子でメンバーに伝えるレオニス。その文面を持つ手は震えが隠せていない。日常的に落ち着きが無くうるさいウェイが、静かに押し黙る。逆に普段から無表情なカーラは動揺を露わにして、それを抑えようとしているのが逆に痛々しい。一番幼いルシアは、泣き喚いた。家族であり親友とも呼べる間柄になっていたラスクが、スパイとして憧れだったあの男が、妹の敵の為に戦い続けてきた彼が、死んだ?また5人で飯を食べて風呂にも入って、昔みたいに寝ようって話しもしてたのに。ミスなんかしないで片付けて戻ってくるって自信満々だったくせに。
平凡な5年間とは違い、命をかけた仲間として過ごしてきた濃厚な5年間、5人で同じ目標を持って背中を預け合ってきた5年間。その内の一人が欠けたショックはとてつもなく深く大きい。

「ラスクは…ラスクが口を滑らしたりするとは思えない…どうして失敗したかは情報にないの…?」

「俺も失敗したとしか聞いていない。武器の所持が判明したか、身分の偽装に失敗したか。何か別の要因があったのかもしれないが、とにかくラスクは任務を達成出来なかったんだ」

レオニスが言った言葉に一番納得できていないのは、レオニスに違いない。下唇を噛み、眉間に力が込められる。カーラもそれ以上聞けなかった。俯き、何度も深い溜め息を吐いて感情を落ち着かせようと努力する。ウェイは下を向いたまま後ろ髪をくしゃくしゃとして、状況を整理して受け入れようとしているようだ。
その中、一番年齢が低いルシアはどうしても涙が止まらない。溢れ出る感情に栓をしようとすると、余計に咽返り、仲良く過ごしていたラスクの姿ばかりが反復される。馴染めるか不安だったこのチームに溶け込めた切っ掛けは、あの優しさがあるラスクのお陰だった。強くなろうと必死になっていた自分に手を差し伸べてくれたのもラスクだった。スパイとしてここまでやってこれたのもあいつを追いかけてこれたからで、これからも家族同然に過ごせるものだとばかり考えていたのに。
当たり前に感じていた日常から、親友が一人消えた。両親を奪ったオーク王国が、また戦争という不条理を掲げて親友までも奪っていった。

気合だけで強くなれないなら、そこに憎しみも加えればいい。何があってもオーク王国を許さない。あの国に住んでいる人間はみんな悪で、情の欠片もない救いようの無い連中なんだから。今まで戦争で死んでいった人たち全員の仇を俺が取ってやる。

青味がかった深い深い黒の中に、濃い赤が入り混じった感情を抱くルシアの耳に、あの夜の言葉が聞こえてくる。

「俺はカレンを殺したオーク王国を許さない。何があっても。それは両親を殺されたお前も同じだろ、ルシア」

RE:Birthday 06

砕けた雰囲気の中改めて自己紹介のような話題になり、スパイとしての心得、訓練での思い出、戦争が終わった後の夢等を話題にして、長らく口にしてなかった暖かい料理を5人で囲みながら明るい時間を過ごしたルシア。
その中で引っかかったな事と言えば、全員過去については殆ど語らないこと。どうしてここで、年齢も自分と差ほど変わらない彼らがスパイとしてオーク王国を憎んでいるのか、戦争に関わっているのか、聞いてはいけない空気が漂っていたこと。ルシア自身も聞かれていい気分ではない内容なので、敢えて質問しようとはしない。自分と同じか、あるいはそれ以上の憎しみをオーク王国に抱いている人間だからこそ、今こうして同じチームとして食事をしている事実だけで団結力を感じられる。

食後、自然な流れで入浴も一緒にすることになり躊躇したルシアだったが、戦場では大して珍しい事じゃないとレオニスに諭され共に楽しんだり(当然カーラだけは別で、ウェイが覗こうとしたところを迎撃されていた)、レオニスの部屋で寝袋を広げ眠るスペースを確保する時、寝相の話で誰がどこかと揉めてみたり(ウェイがカーラの横を陣取ろうとして蹴っ飛ばされていた)、あまり経験した事のない体験がルシアには面白かった。

レオニスは真っ直ぐな姿勢、カーラはナイフを軽く抱くように、ウェイは大の字、ラスクは腕を枕にして横を向きながら。みんなが寝息を立て始めた頃、ルシアは自室から持ってきたロケットを開いてふと眺める。
この部屋に今いる4人と過ごした事でフラッシュバックした、もう二度と戻ってくることのない両親との時間、その幸せな思い出が嗚咽と混じって込み上げてきそうになるのを、必死に堪える。

「寝れないか?」

寝ていたのか眠りに落ちる直前だったのか、隣のラスクが声をかける。

「飯も風呂も、今みたいに同じ場所で寝るのも、戦場だと当たり前みたいにみんなで過ごす事になるから慣れとけよ?ここが森でも同じような事になるからさ」

「そうなんだ。楽しいね」

上擦った声だとバレないよう、短く答える。部屋は暗いから目頭に水が溜まってるのは見えないだろう。ロケットを持ち上げていたても静かに体の横に下ろす。強くなると宣言しておきながら写真を見て泣いてるなんて恥ずかしいし、同い年のラスク相手なら尚更だ。子供っぽい一面を見せたくなかった。

「…それさ、両親の写真?」

「見えるの!?」

自分が想定してた以上にラスクの目には自分が映ってたのか?それどころか、ロケットの中に入ってる小さな写真まで暗い部屋の中で見えてるのか?だとしたら夜目が利くなんてレベルじゃない!泣いてるのだってバレてるのか?単純に驚くルシア。

「うっすらだけど。それとルシアがここに配属されるって話になった時、資料もちょっと見せてもらったからさ。オークに二人とも殺されたんでしょ?」

「……」

食事の時には何も話さなかったくせに、自分の過去は調べられてることが何か気に食わなかった。ズルい手で心の中を勝手に見られたような、自分だけ抜け者にされて晒し者にされているような不快感。それらが邪魔をして素直に肯定ができずちょっと黙る。

「…俺もさ、オーク王国に妹を殺されてるんだ。半年前、たった一人の家族だった妹を」

明るい調子のラスクのトーンが露骨に下がる。でも嫌々喋ってるような様子も無く、嘘にも思えない。

「妹…?」

「そう、カレンって言うんだ、俺の二つ下でさ、お兄ちゃんお兄ちゃんって何処行くにもついてきて、すげぇ可愛かったんだぜ?俺もカレンも孤児で血は繋がってなかったけど、小さい頃から一緒だった妹なんだ。これはレオニスしか知らないんだけどさ」

「孤児…どうしてラスクの妹はオークに…?」

単純に投げかけた疑問に、ラスクの表情が曇るのが分かった。暗いのに、見えた気がした。

「戦争だから、なんだってさ」

「戦争だから…?」

「どうして俺の国がオーク王国と戦争になったのかは詳しく知らないけど、戦争になったら誰が殺されてもおかしくないんだって。そうレオニスは言ってた」

身に覚えがなくても、煙に包まれ火に焙られ、殴られ蹴られ切られ刺され、殺されて。その理不尽な理屈が通るのが戦争なんだとラスクの口から聞かされる。両親の最後を脳裏に浮かべながら、ルシアは真面目に聞き続ける。
次第にラスクとカレンの話にシフトしていき、ルシアも両親との楽しかった日々を鮮明に思い出しながら、一生懸命にラスクに伝える。こんな会話で笑って、こんなことがあって、何を食べて何処に行って、忘れていたような事まで次々と言葉として溢れ出て、涙まで一緒に溢れ出てきて。

もう二度と戻ってくることのない両親との時間。戦争という、たった一つのくだらない単語で許されてしまう殺し合いに巻き込まれた、大事な両親との時間。正面にラスクが居ても、部屋で寝ている他の三人が居ても、堪えられなくなった涙をぽたぽた落として泣きじゃくる。

「気合だけじゃ強くなれないからな」

少しばかり泣いているルシアを静観していたラスクが放ったその言葉には聞き覚えがあった。

「…あの時僕を…運んでくれたのはもしかして君…?」

「俺もこっちに来たばっかりの時はさ、ルシアみたいに我武者羅に剣を振って腕痛めたりしたんだ。なにがなんでも強くなってオーク王国に復讐するんだって…カレンの敵をとってやるんだって熱くなっててさ。だからなんか見てらんなくて」

そこから更に話し込んで、この特別隊にルシアの入隊を案として提出したのがラスクだったというのも聞く。立場の共感と意志の共有、ミファエル共和国にルシアを連れてきたのが特別隊の隊長となるレオニスだったこともあり、実戦経験のある4人の中にルシアが組み込まれたらしい。
既に泣き止み落ち着いて情報を整理していたルシアは、静かにラスクに言う。

「ありがとう」

過去を話してくれたこと、必死になっていた自分を特別隊に入れてくれたこと、医務室に運んでくれたこと、いっぱいの意味が詰まったありがとう。
言った方よりも言われた方が恥ずかしかったのか、ラスクは反対側を向いて再び横になった。

「二週間後にはサンクストンの要人暗殺があるんだ、チームなんだからヘマしないでくれよルシア。信用してるから話したんだからさ」

「うん、分かった。頑張る」

もう一度ロケットの写真を眺め、決意新たに大きな呼吸を一つ吐いて寝袋に口元を埋める。聞こえてくる寝息に合わせて自分も夢の一歩手前に立った時、聞こえてきたラスクの言葉に脳を起こして反応する事が出来なかった。

「俺はカレンを殺したオーク王国を許さない。何があってもさ。それは両親を殺されたお前も同じだろ、ルシア」

RE:Birthday 05

レオニスの部屋はルシアの養成キャンプにある部屋とは違い、比較的広く綺麗だった。棚に収められている保存データのタイトルを見る限り、かなり古くからある書籍や戦略構築、偉人の伝記とジャンルもまたその種類も多岐に渡るのだろう。
言い出したのは俺だからとレオニスが食費を出し、ウェイがキャンプで食材調達、今はカーラが調理をしてくれている。ラスクは後で洗い物だそうで、ルシアはまだ来たばかりだということもあり役割は振られていない。どうやらルシアを除く四人は以前から交流があるのか、そのやり取りはごく自然で家族のように楽しそうに見えた。

「しっかしお前も訓練終了かよー。まだまだ課題は残ってんじゃないか?大型剣振ってなかったりとか」

「そんなことないよ!振った振った、ちゃんと振った!体だけデカいレオニスみたいに上手くは振れないけど、なんとか触れたから!」

「本当かよ?デカい体だけが取り柄のレオニスくらいには扱えるようになってもらわねぇと不安だなー」

「ウェイ、ラスク、俺は体が大きいだけじゃないからな、他の技能もちゃんと備わってるんだぞ」

硬い印象の強かったレオニスだが、今は優しい表情で談話に参加している。オンとオフの切り替えをしっかり意識しているんだろう、
非常にリラックスした体勢で笑っている姿は父親にも似た安心感がある。

「でも俺達が普通に食ってたんじゃここまで大きくはなれないよなぁ、ルシア?」

同い年で身長もまだ高くない者同士としてなのか、ラスクが相槌を求めてきた。今の空間の暖かい雰囲気に飲まれてルシアもつい、ラスクとウェイの発言に乗っかる。

「そうだよね、僕らじゃ何を食べても限界があるから。レオニスは巨人族の生き残りなんじゃない?」

「巨人ときたか…」
「言うねぇ少年」
「そう思うよな!」

途端にみんなが笑いだす。巨人と言われたレオニスにも怒る様子は全くない。母星ヘルデをオーク王国に襲われたあの日から、こんな風に数人で笑い合った日なんて過ごしてなかった気がしてきた。
ここにいる人達は、みんなオーク王国に恨みがあるから集まってる仲間なんだ、これからチームとしてやっていくんだ。新しい僕の居場所になるかもしれない…命を預けるんだから、家族とはまた別の深い絆が、縁の糸が紡げるかもしれない。

「笑ってないで少しは手伝ってよ…ゼリーで済ませてもいいところをわざわざちゃんと作ってるんだから」

奥からカーラが顔を出す。手にはナイフを持っているが、調理用には不向きな戦闘用ナイフ。それほど使い慣れているということなのか。この時がルシアも武器の扱いになれないといけないと自覚した一番の瞬間だった。

RE:Birthday 04

場を仕切り直してレオニスが説明し出したのは、ミファエル共和国のスパイ特別隊としての初任務の概要だった。ブリーフィングは非常に簡単な物で、このチームの誰かが命を落とす可能性は限りなく低い。特別隊と銘打ってはいるが、まだ小隊としての実戦経験は0に近いので腕試しとしての意味も、レオニスが言っていた通りチームとしての行動に慣れる意味もあるのだろう。

「――そしてこのサンクストンと言う国は、オーク王国に僅かながらの資源の輸出をしており、今現在高脅威とはなっていないが…敵国に加担している以上長い目で見た場合を想定すると早い段階で――」

あのモニター、お父さんが家で見ていたのと同じぐらいのサイズだな…僕も横で一緒にハイバウンドのリーグ戦を見てて…G調整とボールの角度についてお父さんが説明してた時にお母さんが僕達を呼んで…晩ご飯ができてて…。
無意識に胸に手を当てるが、いつもならそこにある物は、失くしちゃいけないと訓練の前に部屋に置いてきたままだと思い出す。後でちゃんと取りに戻らないと。

「――以上二名がサンクストン内で特にオーク王国との友好性を重視している人物であり、サンクストンとオークの物流パイプを一時的にでも――」

お父さんの身長ってどれくらいだったっけな。モニターの横に立ってるのを見るとレオニスの方が背が高いかもしれない。あんなに一緒で毎日見てたお父さんの身長がどうしてすぐ思い出せないんだろう。お父さんの唇辺りにお母さんの頭があったから…あれ、でも僕から見てお母さんはどれくらい高かったっけ?

「――お前たち4人のスキルでも十分に達成可能だろう。俺は直接作戦に参加はしないがサンクストン現地で万が一に備えている。潜入と準備を含めて2週間、小さい国で軍事力も乏しくこちらの戦争の火の子が飛び火するとは予想していないだろうから――」

そうだロケットの中にお父さんもお母さんも並んで立ってる写真が入って…ああダメだ、あれは今部屋に置いてあるんだって。それに一緒に僕が写ってない。もしかしたらオークの奴らにお父さんお母さんを殺された時点で、僕と二人の身長差は永遠に謎になったんじゃ…

「――の通り、ラスクとルシアに要人の暗殺を任せる。いいな?」

ハッとするルシア。作戦説明の時間だというのに何を考えてるんだと自分に喝を入れる。待ち望んだオーク王国への復讐の第一歩が踏み出せるって時が近い。未熟ながら必死に訓練に耐えてきたのもその日の為だった。

「コンビだってことだな!俺の背中を任せるぜルシア、忍びこんじまえばこっちのもんなんだからさ!」

「あ、うん!よろしくラスク!」

顔を合わせて一時間と少し経ったか経ってないかなのに、ラスクの距離感は不思議と不快ではなく、自分の内側にズカズカと入ってくるかと思いきや大事なところを踏み荒らさない、絶妙な物だった。ただこの明るさが見込まれてスパイとして買われているなら、今触れている明るいラスクはフェイクなのかもしれない。そうだとしても今のルシアにはその真偽を知る術はないけれど。

「ウェイは各人の配置に合った武器の調達、作戦当日にはカーラと共に二人の潜入通路の確保だ。カーラは要人の生活リズム、固定化されている移動通路の偵察、後にウェイと同じく二人の通路確保に回ってもらう」

「カリキュラムで使った銃って奴の本物は使えないんですかね?したら要人なんか簡単に仕留められんのに」

短時間のブリーフィングでもウェイには辛かったのか、首の骨を鳴らしならレオニスに質問をする。

「訓練で使用したのは模造で弾は出ないし、世界に現存する実銃はもう数えるほどしか無い。ガンパウダーさえ稀少価値が付いていることは知ってるだろう?スナイプの訓練は必修ではないからな」

「ブッシュの濃さがさっきの映像じゃ判断出来ませんでした。レオニス、サンクストンに関する資料を持ってる限りもらえる?あれば詳しい地図もほしいわ」

続いてカーラがレオニスに要求を持ちかける。いつもと同じ無表情に見えて、作戦だからか若干強張っているようにも見える。気がする。

「分かった、用意してまとめて渡そう。間違えても偵察の時にこれまで使ってたスコープを持っていくなよ?訓練で使用していた簡易通信だと向こうに拾われる可能性も出てくる」

真面目な顔で二人の質問に答えた後、レオニスはルシアとラスクの方に顔を向けた。

「お前達二人は何か質問はないか?ないのなら早速2週間後の初任務に向けての準備に取り掛かるが、どうだ?」

「大丈夫です、何もありません隊長!」

勢いよく返事をしたラスクの後ろで、もう一度だけ説明を聞きたいと思っていたルシアが口をあんぐりと開いていたが、聞き直すことで怒られても嫌だなと結局黙る。既に失った両親の事を想い返していたなんて言ったら、作戦に対する熱意を疑われてしまいそうで。

「ならこれで最初の作戦説明は終了だ。明日からはサンクストンに潜入して現地で行動となる。今夜は絆を深める為に同じ部屋で食事をして眠るとしよう。いいな?」

それを聞いてズバ抜けて嬉しそうな顔をしたウェイは、直後カーラに睨まれていた。

RE:Birthday 03

ウェイに連れて来られたのは質素なテーブルとモニターがある、カビ臭い小さな部屋だった。一礼して椅子に腰かけ、大きな体の男を見上げる。

「もう大丈夫なのか、ルシア」

「はい」

「そうか、無理はするなよ」

短いやり取りでルシアを気遣ったその男こそ、ルシアがここに来てスパイとして訓練する切っ掛けを与えたレオニスである。他の訓練生とは違いスーツの様な、気高ささえ感じる軍服を着ている。恐らくは二十歳かそこらなのだろうが、正式にここミファエル共和国の軍に所属しているようだ。
ルシアの母星、故郷であるヘルデ。その星はミファエル共和国と激しい戦争状態にある隣国、オーク王国によって侵略され、人の命も、資源も奪われた。忘れもしない二ヶ月前、ルシアも侵略の被害に遭い両親は殺され、自身も星流し―――単独ポッドに乗せられ宛てもなく宇宙を彷徨う刑―――を不運ながらも経験中、レオニスに助けられた。あの時レオニスが見つけてくれなかったら、きっと今頃は宇宙の真ん中で気を狂わせていたに違いない。
オーク王国への復讐と言う条件でミファエル共和国にやってきたのが約一ヶ月前。そこからひたすらにスパイとしての教育を受けてきたルシアに、レオニスは一体何の用があるのか。
どうやらここに連れてきたウェイも用件は知らされていないのか、カーラと共に椅子に座り、同じ様にレオニスを見上げている。

「すまんな、大事な話があったんだが…その、もう少し待ってくれ。もうすぐ来るはずなんだ」

間を嫌うようにレオニスが口を開くが、歯切れが悪い。もうすぐ来るとは一体…

「誰のことだ?」
「誰のことよ?」

ルシアを挟むように座っていたウェイとカーラも気になったのか、同時に聞く。そういえばここの椅子にはもう一つ空きがある。予め人数に合わせてあったらしい。
レオニスに対して上下関係を意識しない会話ができるウェイとカーラの三人の関係性も、これから来るというもう一人のことも気になる。とにかくルシアはきょろきょろする。それ以外どうしていたらいいか分からないし。

「来たようだな」

誰が来るんだという二人の質問に答えようとした時、外の通路から気配を感じたのかレオニスが視線を向ける。開くドア。

「遅れました隊長!ラスク、現時刻を持って特別隊に編入いたします!ってことでよろしく!」

大きな目が印象的なラスクと名乗るその少年は、大袈裟に敬礼をした後にふふっと笑って見せた。
ぱっと見ルシアよりも幼い印象を受けるが、その声には強い意志が確かに存在しており年齢が上にも見える。幼さと大人の一面を併せ持つ不思議なオーラが漂っていた。

「特別隊ってどういうこと、レオニス?」

未だに状況が把握できず顔面に"?"マークを浮かべていたウェイを押しのけ、カーラが質問を投げかける。レオニスは手元の資料を確認しながら説明を始めた。

「ウェイとカーラ、ラスクは実戦経験もある、もう養成の必要性はあまり高くなく、形だけのカリキュラムよりも現場で慣れた方が効率がいいだろう。一種の実験でもあるが、いち早く戦力になる人材を育成したいというのが上の本音らしい。頼りないかもしれないが俺を隊長として、この5人で今回オーク王国を潰す為の特別隊を新たに編成することになったんだ。ルシア、一応自己紹介をしておけ」

目線で促されるが、ルシアは意味が分からない。
特別隊?現場で慣れ?カリキュラムは必要ない?
オーク王国への復讐を目的としてこの地にやってきたルシアだが、まだ剣も満足に扱えず、どうして特別隊なんてものに自分が編入されたのかその経緯が納得できていないのだ。実戦だなんて想像もつかない。殺し合いの現場にいきなり投げ出されるんじゃないかと、恐怖さえ覚える。

僅かな沈黙を察したのか、ラスクが手を差し伸べ握手を求めてきた。とりあえず握手に応えるルシア。まだ腕が少し痛むがだいぶ楽になっている。握り返したその手はどこかで触れたような感覚があった。

「俺はラスク、資料で読ませてもらったけど君と同い年だよ、ルシア。よろしく!」

彼は腕の痛みを分かっているかのように、静かに上下に手を振っただけだった。お構い無しに激しいシェイクハンドをしてきたウェイとはえらい違いだ。

「そうだな、先に俺達から自己紹介をしておくのが筋だ。改めて、ミファエル共和国軍のレオニス。まだ隊長なんて呼ばれ方も慣れてはいないし手探りの部分も多いが、仲間として頼むぞルシア。お前の決意を見せてくれ」

ルシアの肩をぽんと叩き、高い背丈を少し屈めて目を見つめてくるレオニス。この時ルシアは星流しの刑の時に二人の間で取り決めた約束…オーク王国への復讐の為にならなんでもするという言葉を無意識に反芻した。

「そっち赤い髪の男はウェイ、あらゆる武器に対しての飲み込みが早く大体が扱える器用な奴だ。武器調達もこれからウェイの仕事になるぞ?お調子者だがバカじゃない」

そう紹介され、アクビをしながらおどけて見せるウェイ。遠回しに褒められたことによる照れ隠しでもあるんだろう。

「医務室でルシアを看病してくれていたのがカーラだ。スニーキングが上手くてな、監視や偵察は主に彼女の仕事になるだろう。何かルシアが困ったら助けてやってくれ」

よーく見るとほんの少しだけ口元を緩めて会釈をするカーラ。どうやら完全に無表情ではないらしい。ウェイに怒ってる顔も医務室で見れたし。

「ラスクはこの明るい性格でターゲットに近付いてもらう事が多くなると思う。もちろん各自オールラウンドにこなしてもらえるようになってもらわないと困るんだが、ルシアは特に3人のいいところを盗んで早く上達してもらわないとな。まぁこんな感じだ」

急に実戦チームとして組むことになった人の簡単な自己紹介を受け、さあ次は君の番だぞと言わんばかりの視線がルシアに注がれる。

「えと…ルシア、です…ヘルデ出身で…まだここには慣れてなくて…僕は…」

何を話していいか頭の中で組み立てていなかったし、今すぐオーク王国との戦争に駆り出されるんじゃないかと考えるとやはり怖い。戦争、戦場、殺し合い、オーク王国…脳裏で回転していたそれらのワードが繋がり、気が付いた頃には自然と口から零れていった。傷みが消えかけていた両手をぎゅっと握り、淡々と、穏やかな気持ちのまま。

「僕は…オーク王国に復習がしたい。その為に強くなりたい」

再び瞳に強い意志を灯すルシアを見て息を飲むウェイとカーラ。ラスクとレオニスは頼りがいを感じてか小さく力強く頷いてみせた。